Research Of Nakagawa
ミラ型変光星と周期光度関係
ミラ型変光星は、質量が太陽の1-8倍程度の星がその進化の末期段階に到達する一時的な状態のことを指します。
「銀河のものさし」をつくる方法
右図は大マゼラン雲に存在するミラ型変光星の変光周期(周期Pの常用対数;LogP)と絶対等級の関係です。絶対等級とは星を10pc(=32.6光年=3×10^14km)先に置いたときの星の明るさのことです。この図に見られるように、2つの量の間にはきれいな比例関係があり、変光の周期が長いほど星は明るいことが分かります。大マゼラン雲は非常に遠方にありますが、その距離に対して大マゼラン雲自体の厚みは小さいため、その中に存在する星までの距離は全て同じだとする仮定のもとに縦軸の絶対等級が計算されています。この計算で用いている大マゼラン雲までの距離は50kpcです。
経度を書き込む方法
では我々の銀河系内に存在するミラ型変光星について、同じく変光周期と絶対等級の関係を得ることは出来るでしょうか?残念ながらこの場合、縦軸の絶対等級を決めることが非常に難しいのに気付きます。
今、ある星の実視等級をm[mag]、距離をD[pc]、絶対等級をM[mag]とするとそこには以下の関係が成り立ちます。
m – M = 5 log(D/10pc)
この関係を利用することで、星の変光周期Pと実視等級mから絶対等級Mを知ることが出来るのですが、Pとmが観測から容易に求められるのに対し、Dを決めることが非常に難しいのです。
天文学において、天体までの距離の情報は天体のサイズや質量など基本的な物理量を得るために重要であることは前にも述べたとおりです。距離の計測法には様々な方法がありますが、星の性質についての仮定なしに三角測量による幾何学的な距離決定を行なうには分解能の高い観測装置が必要です。そこで、これまでの観測装置ではなし得なかったミリ秒角の精度で正確な位置決定が出来るVERAが大きな役割を果たします。
"あなたはどこから来るのか"のためのイタリア語
VERAにより、ミラ型変光星の周辺に存在する水メーザー電波源を観測し、三角測量を行なうことでミラ型変光星までの距離を高い精度で計測することが出来ます。距離が正確に得られたら、実視等級mから上記の式を利用して絶対等級Mを得ることが出来ます。複数のミラ型変光星について同様の観測を行なうことにより、多くの(P, M)の組み合わせ得ることで周期Pと絶対等級Mの間に存在する比例関係を明らかにすることが出来るのです。このようにして我々の銀河系内のミラ型変光星について比例関係を得ることが私たち研究グループの目指す「銀河のものさし」作りなのです。私たちは今後3年を目処に、約40天体のミラ型変光星を定期的に観測していく予定です。
ミラ型変光星の6次元地図
APA形式のセミナーを引用あるいは参照する方法
研究グループによる長年の観測の結果、銀河を測るものさしとなる周期光度関係が徐々に得られつつあり、その予備的な結果をこれまでに天文学会を中心に何度か発表してきました。銀河系内ミラ型変光星の周期光度関係が得られたら、いよいよ多くのミラ型変光星までの距離を、実際にそのものさしを利用することにより求めてゆきます。
鹿児島大学では入来牧場内にVERAと併設されている理学部1m光赤外線望遠鏡を用いて、赤外線(Kバンド;波長=2.
2μm)でのモニター観測を進めてきました。対象天体の数はおよそ500天体です。これらの星の中からミラ型変光星を選び出し、その実視等級mと変光周期Pを求めます。これらのデータと、VERAで決定した周期光度関係を結合させることで、数百天体のミラ型変光星までの距離が算出できるのです。更にそれらの星について、視線方向速度のデータと天球面上での運動のデータを利用することで、その星が銀河系内のどの場所(X, Y, Z)にあり、どれだけの速度(Vx, Vy, Vz)で運動しているのかを明らかにすることが出来るのです。言わば6次元(X, Y, Z, Vx, Vy, Vz)の地図の完成です。多くの星についてこの情報(X, Y, Z, Vx, Vy, Vz)を集めることで、銀河系内でのミラ型変光星の運動を統計的に調べることが出来ます。これはミラ型変光星と、それによく似た変光星(セミレギュラー型変光星a, b, cなど)の進化段階についての研究や、銀河系の重力ポテンシャルの解明、またダークマターの解明などにも重要なヒントを与えることが出来ると期待しています。
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