時論公論 「世界遺産、日本の課題」 | 時論公論 | 解説委員室ブログ:NHK
パリで開かれた世界遺産委員会で、平泉と小笠原諸島の世界遺産登録が決まりました。日本では、2007年に島根県の石見銀山が登録されて以来、4年ぶりで、久々に明るいニュースとなりました。なかでも平泉は、東日本大震災もあっただけに、東北復興の象徴として地元では喜びの輪が広がっています。
世界遺産は条約ができて来年で40年。今年の世界遺産委員会で新たに25件の世界遺産が登録され、総数は936件に達しました。1000件の大台を目の前にして、今後の世界遺産がどうあるべきなのか、その中で日本がどのように対応していけばいいのかについても考えてみたいと思います。
<パリで世界遺産委員会>
今年の世界遺産委員会は、パリのユネスコ本部で開かれました。世界遺産委員会は、世界遺産条約の締約国187国の中から選ばれた21ヵ国の代表による政府間委員会です。文化遺産や自然遺産の専門家だけでなく外交官も加わって世界遺産にふさわしいかどうか審議が行われますので、事前の審査を条約で定められた専門家による諮問機関が行い、その勧告をもとに世界遺産委員会で審議する仕組みになっています。
<平泉 「東北復興の象徴」>
平泉は12世紀に奥州藤原氏が築いたまちです。東日本大震災では、毛越寺の浄土庭園にある池の立石が傾くなど影響がありましたが、中尊寺の国宝の金色堂は無事でした。
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カトリーナ後の滞在悪い
世界遺産委員会の審議では、議長がそのことを報告し審議が行われました。3年前は登録延期になった平泉に対し、短期間でよく内容を見直して提案したと賞讃する意見が出されました。
平泉は初代の藤原清衡が、戦乱に明け暮れるなかで育ち、生きとし生けるものが平和に暮らせるよう願って中尊寺を造営したことが伝えられています。極楽浄土(仏国土)をこの世に作り上げられたとされます。
平泉の登録が決まりますと岩手県の達増知事は、世界全体が祝福して登録されたことに感謝し、平泉の理念を活かして震災から開かれた復興を果たしたいと述べました。
地震の影響で東北を訪れる観光客は大幅に減っており、平泉は5月の大型連休中の訪問客は去年の同じ時期の20%以下でした。世界遺産登録を機に観光の振興も図りたいと対策に取り組むことにしています。歴史遺産のもつ精神的な意義に改めて注目し、震災復興にも活かしていきたいものです。
ところで、平泉の場合、世界遺産登録は産みの苦労がつきまといました。3年前には登録延期でしたので、諮問機関の勧告にしたがって浄土思想と関連の薄い資産を減らして再推薦し、ようやく登録にこぎつけました。しかし、柳之御所遺跡は平泉を築いた藤原氏の拠点で寺院や庭園の造営の要として推薦しましたが浄土思想とのつながりが薄いとして除外されました。
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諮問機関の事前審査が公開されていないことにも不満が出ています。平泉のように結局、諮問機関の勧告に合せて推薦し直さなければいけないのだとしたら、推薦する国と諮問機関との間で事前に調整する仕組みを取り入れられないかという意見も出されています。
<政治化する世界遺産委員会>
さて世界遺産は、来年で条約ができて40年を迎えます。1,000件の大台を前に、今後の世界遺産がどうあるべきかについて大きな課題となっています。
その一つは世界遺産委員会が政治化してきている点です。
ことし25件の世界遺産が新たに登録されましたが、そのうち半分を超える13件は諮問機関の勧告が登録ではなかったにもかかわらず逆転登録したものです。去年も同じ様な傾向が見られました。
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世界遺産の審査は原則として満場一致で行われますが、諮問機関の勧告が登録にふさわしいとされていなくても、発展途上国の間でお互いに支援しあって登録すべきとの意見を述べ、それに対して先進国が反対の意見をあまり述べないことから結局逆転してしまうのです。
ユネスコは1994年に世界遺産の戦略的な方針を打ち出し、ヨーロッパ中心の遺産に登録が偏っていることの見直しを図ってきました。そうした方針からすると発展途上国の世界遺産が増えることは悪いことではないとしても、専門家による価値の評価をないがしろにして、政治的な駆け引きで世界遺産が決まっていくようになると信頼のある世界遺産ではなくなってしまいます。
来年、世界遺産発足40周年の記念イベントが世界各地で開かれ、それを締めくくる最終イベントが日本で11月に開かれます。曲がり角に立っているとも言える世界遺産が新たに歩み出せるよう日本がリードしてどのような方針を打ち出せるか問われています。
<歴史都市の景観保全の勧告>
今や世界遺産の総数は1000件の大台に迫り、もう一つの課題は登録された世界遺産をいかに守っていくかです。というのもドイツのドレスデンのように世界遺産に登録したにもかかわらず交通が不便だとして橋をかけ景観が損なわれるとして世界遺産を取り消される例も出てきたからです。
文化遺産や自然遺産に関する脅威は、災害や国際紛争などこと欠きませんが開発圧力にさらされている都市の保全も必要に迫られています。というのも都市に関連した世界遺産は四分の一にも達し、超高層ビルの建設などが景観を破壊するとして問題になる例に事欠かないのです。そうした中、ユネスコは、歴史都市の景観の保全に関する勧告を今年の秋に出すことにしており、すでにその原案も公表されています。
日本の世界文化遺産も平泉に加えて、京都、奈良、姫路城、原爆ドームなど都市に関連した遺産が多いのです。平泉もそうですが、京都や奈良も都市全体が世界遺産になっている訳ではなく、お寺や神社など歴史的建造物を選んで世界遺産に登録されています。
ユネスコが新たにだす歴史都市の景観に関する勧告では、世界遺産に登録されている歴史地区や歴史的建造物だけではなく、そうしたものを含み込んだ都市を周辺も含めて景観の保全に取り組まなければいけないというものです。
この勧告を先取りするかのように京都の場合、世界遺産に登録されたお寺や神社だけでなく、古都保存法で周辺の山間部の緑地を守っていますし、市街地の中心部を高度地区にして建物の高さ規制を強化するなど景観施策に果敢に取り組んでいます。美しい町づくりが観光にも結びつくことは言うまでもありません。
日本では景観法や歴史まちづくり法もできて、美しいまちをめざす気運も盛り上がっています。世界遺産に登録されていない都市でもユネスコの歴史都市の景観に関する勧告は大きな意味を持っています。
世界遺産の登録はゴールではなく新たなスタートとはすでに指摘されていることですが、世界遺産40年を前にユネスコの勧告を受けて美しいまちをめざす動きをいかに盛り上げていけるか大きな課題といえます。
(毛利和雄 解説委員)
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